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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)858号 判決 1950年8月31日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人市原庄八上告趣意第一点について。

旧刑訴三六〇条によれば、有罪判決には罪となるべき事実に対する法令の適用を示せば足りるものであって、審判をするについて準拠すべき訴訟法を示す必要はないものである。そして、本件審判が旧刑訴に従い行われたことは記録上明白であるから、原判決が訴訟費用に関する点についてのみ刑訴施行法及び旧刑訴の規定を掲げその他の点については旧刑訴に依ったこと並びにその根拠法である刑訴施行法二条を示さなかったからといって、判決に示すべき法律の適用を誤り又は遺脱したとはいえない。論旨は、それ故、採ることができない。

同第二点について。

いわゆる不能犯とは犯罪行為の性質上結果発生の危険を絶対に不能ならしめるものを指すものであるから、本件行為の性質上殺人の結果発生の危険ある以上、被害者において被告人の犯行を予知していたとしても、不能犯であるとはいえない。されば、これと同趣旨に出た原判決の説示は正当であって、原判決には所論の違法は認められない。

同第三点について。

しかし、証拠調をした証拠書類を公判調書に記載するには如何なる証拠書類について証拠調をしたかを知りうる程度に記載するを以て足り、必ずしもその作成者、年月日、表題その他の点につき一々個別的、具体的に詳細掲記する必要はないものである。そして、原審公判調書における所論摘示の記載によれば、原審が問題の診断書並びに鑑定書について具体的に適法な証拠調を為したことを窺い知ることができるから、所論は採るを得ない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

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